暗号資産(仮想通貨)はこれまで、値動きの大きさや投機的な利用が目立つことから「リスクの高い資産」と見なされてきました。しかし近年は、金融庁が制度見直しを進めており、暗号資産を金融商品として扱うための議論が本格化しています。特に、発行者による情報開示の義務化や、インサイダー取引規制の導入、銀行による保有解禁の検討など、金融資産としての位置付けに向けた動きが報じられています。

この流れは、暗号資産がこれまでの「投機的なデジタル資産」から「金融インフラとして機能する資産」へと移行しつつあることを示すものです。暗号資産の取り扱いが金融商品に近づくほど、制度面の整備が進み、投資家保護や市場の透明性が強化される一方、企業や個人の実務も大きく変わっていきます。

この記事では、金融庁の最新の検討内容を踏まえながら、暗号資産が金融資産として扱われるとはどういうことなのかをわかりやすく整理します。制度が変わる背景、企業や投資家に及ぶ影響、そして今後のスケジュールまで体系的にまとめています。

暗号資産の制度変更に関心がある方や、法律面からの整理を知りたい方は参考にしてみてください。

暗号資産の基本的な概念とこれまでの位置付け

暗号資産(クリプトアセット)は、インターネット上で電子的に記録・移転できる価値を指す概念で、資金決済法によって一定の定義が定められています。近年はビットコインをはじめ、送金技術・スマートコントラクト・NFTなど、多様な用途が生まれています。ここでは、制度面に基づく基本的な定義と、これまでどのように扱われてきたのかを整理します。

暗号資産の定義

暗号資産は、資金決済法において次のような特徴を持つ価値として規定されています。

  • 不特定の者に対して代価の支払いに利用できること
  • 不特定の者同士で売買・交換ができること
  • 電子的に記録され、第三者を介さずネットワーク上で移転できること
  • 法定通貨(日本円・米ドルなど)やプリペイド型電子マネーとは区別されること

資産としての性質を持つ一方で、発行主体のない「分散型」の仕組みや、暗号技術による保護が特徴です。
特にビットコインやイーサリアムのように、ネットワーク参加者が管理を分散して担う仕組みは、従来の電子マネーとは根本的に異なります。

暗号資産のこれまでの位置付け

暗号資産は長らく「投機性が高い資産」と見なされてきました。制度上も、金融商品ではなく「価値記録」として以下のような分類がされてきました。

●支払手段としての利用

一部のECサイトや海外のサービスではビットコイン決済が使われています。ただし普及率は限定的で、価格変動の大きさが広く利用されない理由のひとつとなってきました。

●交換・送金手段としての利用

国際送金や個人間送金の手段として注目される場面もありましたが、規制や税制の課題により、金融インフラとしては十分に普及してきたとはいえません。

●投機対象としての扱い

国内で最も一般的なのがこの分類です。
価格変動の激しさやメディアでの話題性から、「値上がりを期待して購入する」という動機が多く、市場のボラティリティが高いことが特徴でした。

その結果、暗号資産は株式や債券のような金融商品とは区分され、金融商品の保護規制(インサイダー、情報開示など)の適用外となってきました。

金融資産/金融商品とは何か

暗号資産が「金融資産として扱われる可能性」が議論されている背景には、既存の金融制度との関係があります。

暗号資産はこれまで資金決済法で規定されてきましたが、もし金融資産・金融商品として扱われる場合、金融商品取引法の枠組みに近づくことになります。

ここでは、金融資産とはそもそも何を指すのか、その法律的な枠組みを整理し、暗号資産との境界線を明確にします。

金融商品取引法(FIEA)の枠組み

金融商品の多くは金融商品取引法(FIEA)によって規律されています。
株式や債券、投資信託、デリバティブなど「投資の対象となる商品」がこの枠組みに含まれます。

FIEAで定められる主な金融商品

  • 有価証券(株式・債券・投資信託)
  • デリバティブ取引(FX、先物、オプションなど)
  • 証券化商品、集団投資スキーム

これらの金融商品は、投資家保護の観点から厳しいルールが存在します。

FIEAの保護規制

  • 情報開示義務(企業内容開示・目論見書など)
  • インサイダー取引規制
  • 広告・勧誘ルールの強化
  • 不正取引の禁止

暗号資産が「金融商品扱い」となる場合、これらの規制が適用されることが想定されています。

資金決済法の枠組み

一方、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、現在資金決済法の「暗号資産」区分によって規制されています。

資金決済法が規定する内容

  • 暗号資産交換業者の登録制度
  • 顧客資産の分別管理
  • 不正送金対策・AML/CFT対応
  • 利用者保護のための最低限のルール

ここで重要なのは、資金決済法はあくまで「決済手段や取引の安全性」を中心とした法律であり、
投資家保護を目的とした“金融商品としての規制”とは異なるという点です。

そのため、価格変動リスク・発行体リスク・情報開示など、投資商品として求められる保護制度は限定的でした。

「金融資産化」とは何を意味するか

暗号資産の一部を金融商品として扱う議論は、単なる呼称の変更ではありません。
制度的には以下のような大きな変化を意味します。

1.情報開示の義務化

発行者・プロジェクトの詳細・リスク・技術仕様などの開示が求められ、透明性が高まる。

2.インサイダー取引規制の適用

トークン発行者や関係者が内部情報を利用して取引することが禁止される。

3.投資家保護の強化

詐欺的プロジェクトや説明不足によるトラブルを減らし、安心して投資できる市場に近づく。

4.金融機関の参入が容易になる

銀行・証券会社・保険会社が暗号資産を扱いやすくなり、流動性や信頼性が向上する。

つまり「金融資産化」とは、暗号資産が“投資商品”として正式に扱われるようになることを指し、今後の市場の成熟度を大きく左右する制度変更となります。

暗号資産を金融資産にする背景と理由

暗号資産を「金融資産として扱うべきか」という議論が本格化している背景には、市場の成長だけではなく、制度面・投資家保護・金融機関との整合性といった複数の要因が重なっています。

単なるブームとして扱う段階を超え、社会的な役割を持つ資産クラスとして整理すべきだという共通認識が広がっていることが根底にあります。

市場拡大と投資家保護の観点

暗号資産市場はこの数年で急速に拡大し、企業や個人が投資対象の一つとして扱うケースが増えています。一方で、プロジェクトの情報開示不足や、発行体が不透明なトークンが多数存在することも事実です。
こうした状況では、投資家が十分な情報を得られず判断を誤るリスクが高まります。

そのため金融庁では、価格が急変動しやすい暗号資産を一定のルールの下に置き、投資家がより適切な判断をできる環境を整える必要性を指摘しています。市場が大きくなるほど、情報開示・不正取引の防止・事業者の管理体制といった保護規制の重要度は増しており、金融資産化の議論を後押しする理由となっています。

法規制のギャップと制度整備の必要性

現在、暗号資産は資金決済法で規定されていますが、この法律はもともと「決済手段としての安全性」を確保するための枠組みです。投資商品としての透明性や説明義務を強く求める金融商品取引法とは目的が異なります。

そのため、発行体の情報開示やインサイダー規制といった投資家保護の観点では、既存の制度では十分ではないと指摘されています。暗号資産の性質は金融商品と重なる部分が多く、これまでの制度では扱いきれない「中間領域」が生まれています。このギャップを埋めるためには、新たな制度整備や、既存法の適用範囲拡大が必要になります。

税制・銀行保有の議論も含めた制度変更動向

暗号資産を金融資産として整理する議論には、税制や金融機関の扱いといった幅広いテーマが密接に関係しています。

現在、暗号資産の利益は雑所得として総合課税が適用され、最大55%に達する場合があります。これが投資対象としてのアクセスのしにくさにつながり、個人投資家・企業双方にとって負担が大きいとされてきました。

そこで、株式などと同じ20%の分離課税に変更する案が議論されており、市場の健全な発展に寄与すると期待されています。

銀行や保険会社といった金融機関が暗号資産を保有したり、関連サービスを提供することについても議論が進んでいます。

現状は厳しく制限されていますが、金融資産として整理されることで扱いやすくなり、結果として市場の信頼性や流動性が高まる方向に進む可能性があります。

こうした複合的な要因が重なり、暗号資産の位置づけを従来より厳密に整理し、金融商品として扱うべきだという声が高まっているのです。

暗号資産が金融商品扱いになる際に何が変わるのか

暗号資産を「金融資産・金融商品」として取り扱う方向性が進むと、制度や企業実務に大きな変更が生じます。これまで投機的・独自分野として扱われていた領域が、金融商品取引法(FIEA)の枠組みに統合されることで、透明性・説明責任・規制の強度が大きく変わります。ここでは議論が進む主要ポイントを整理して紹介します。

情報開示義務の強化

金融庁は暗号資産のうち「105銘柄」を対象に、発行者情報や技術情報、リスク説明などの開示義務を課す方針を示しています。
これまでは発行体が不明確なトークンも多く、利用者が十分な判断材料を得られない状況が課題とされてきました。

金融商品として扱われる場合、株式などと同様に以下の開示項目が求められる方向です。

  • 発行体の概要
  • トークンの仕組み・技術的特徴
  • セキュリティリスク
  • 運営体制・資金調達の目的
  • トークンの分配構造
  • 経済モデル・インセンティブ設計

開示が整うことで、投資家が「何に投資しているのか」を正確に把握できる環境に近づきます。

インサイダー取引規制の導入

暗号資産が金融商品取引法の対象となると、株式市場と同じようにインサイダー取引が禁止される方向です。

現在の暗号資産市場では、開発者・運営者・関係企業が未公開情報をもとに売買することを防ぐ仕組みが不十分で、情報優位者が不正に利益を得るリスクが指摘されていました。

インサイダー規制が適用されれば、以下が求められるようになります。

  • 未公開重要情報を利用した売買の禁止
  • 内部情報の管理体制の整備
  • 関係者の取引記録の報告
  • 交換業者による監視義務の強化

市場の透明性が高まり、不正取引を防止しやすくなるというメリットがあります。

税制の見直し可能性

暗号資産の所得は現在「雑所得(総合課税)」として扱われ、税率は最大55%に達します。
これが国内投資家や企業にとって大きな負担となり、市場活性化の妨げになっているという指摘が続いてきました。

金融資産化の議論の中で、以下のような変更案が議論されています。

  • 株式と同じ20%の分離課税を適用する案
  • トークン保有による含み益課税の撤廃(法人向け)
  • 暗号資産関連企業に対する税務負担の緩和

特にスタートアップ企業が自社発行トークンの含み益課税に苦しむ問題は長年問題視されており、制度見直しが進めば国内のWeb3事業がより活性化する可能性が高まります。

銀行・保険会社など金融機関の保有・運用解禁案

現行制度では、銀行・保険会社などの金融機関は暗号資産を保有・運用することが厳しく制限されています。しかし、金融商品として整理されることで、以下が可能になる方向で議論が進んでいます。

  • 銀行が暗号資産を自己勘定で保有
  • 銀行の子会社が暗号資産サービスを提供
  • 保険会社による暗号資産関連商品の扱い
  • 金融機関によるカストディ(保管)サービスの提供

これにより、国内機関投資家が市場に参加しやすくなり、暗号資産市場全体の流動性や信用度が高まることが期待されています。

どの暗号資産が対象になるのか

暗号資産が金融商品として扱われる方向性が進む中で、「どの銘柄が規制対象となるのか」は投資家・企業ともに非常に重要なポイントです。金融庁は、国内交換業者が取り扱う銘柄のうち、一定の技術的・経済的要件を満たすものを対象にするとしており、現時点では“105銘柄案”が中心的に議論されています。この対象範囲は、市場への影響が大きく、企業のサービス提供や投資判断にも関係してきます。

以下では、現時点で報道・資料から読み取れる範囲を整理しつつ、投資家や企業が特に注意すべきポイントをまとめていきます。

対象銘柄の範囲:105銘柄案

金融庁が検討している方向性として、国内の暗号資産交換業者が取り扱う銘柄のうち105銘柄を対象として金融商品取引法(FIEA)の適用を検討する案が報じられています。

対象となる可能性が高いものは、以下のような特徴を持つ暗号資産です。

  • 国内交換業者で広く流通している銘柄
  • 一般投資家が容易に取引できる銘柄
  • 発行体やプロジェクトが比較的明確な銘柄
  • 技術情報・リスク情報を開示できる銘柄

具体的な銘柄名はまだ確定ではありませんが、市場規模の大きいBTC(ビットコイン)、ETH(イーサリアム)、XRP(リップル)をはじめ、国内の主要アルトコインが含まれる見込みです。

分類モデル「資金調達型/非資金調達型」暗号資産

金融庁は、暗号資産を大きく「資金調達型」と「非資金調達型」に分けて議論しています。

●資金調達型(Investment-typetoken)

  • トークン販売がプロジェクトの資金調達手段になっている
  • トークンの価値が事業の成長と連動しやすい
  • 実質的に株式や社債に類似した性質を持つ

この場合、金商法の対象として扱われる可能性が高く、投資家保護の観点から説明義務・情報開示が強化される方向です。

●非資金調達型(Utility-typetoken)

  • ブロックチェーン上のサービス利用のためのトークン
  • 特定の経済圏で使われるポイントのような性質
  • 発行体が事業成長による利益を保証しない

こちらは金商法ではなく、従来どおり資金決済法の枠組みを基本とする見込みですが、用途によっては一部規制強化の対象になる場合があります。

この分類は、NFT・ガバナンストークン・ゲームトークンにも関係し、企業がどのモデルで事業を設計するかに大きな影響を与えます。

対象外となる暗号資産・注意点

暗号資産のすべてが金商法の対象になるわけではありません。議論では、以下のような資産は“対象外となる可能性が高い”と整理されています。

ステーブルコイン

法定通貨との連動を目的としており、投機性が低い。
資金決済法の枠組みで管理される方向。

決済専用トークン

ポイントに近い役割を持ち、投資性を持たないケースは対象外。

トークン化証券(ST)

これは最初から金商法の「セキュリティトークン」として扱われており、今回の金融資産化議論とは別枠。

ゲーム内通貨など価値移転しないもの

外部市場での取引がなく、金融商品性がないケース。

規制移行時のスケジュールと今後の展望

暗号資産を金融商品として扱う方向性は、段階的な制度見直しによって進められています。金融庁は、資金決済法と金融商品取引法の両面から暗号資産の扱いを整理し、必要に応じて新たなルールを導入する方針を示しています。

制度変更が一度に行われるわけではなく、議論・素案・国会提出・施行という長いプロセスを踏むため、企業も投資家もスケジュールを把握しておくことが重要です。

制度が進むほど市場の透明性が高まり、企業の参入もしやすくなりますが、その一方でプロジェクトや投資家に求められる要件も増えていきます。

以下では、現時点で想定されているスケジュールと、制度が与える影響を見通しとして整理します。

規制見直しのロードマップ

金融庁は、暗号資産の金融商品化に向けた議論を2023年頃から本格化させ、2024年以降も継続して審議しています。
報道によると、2026年の通常国会での関連法案提出を目指す方向が示されており、現時点で想定される段階は以下のとおりです。

●2024〜2025年:制度課題の整理と議論

  • 資金決済法の枠組みで残る課題
  • 金融商品取引法に移す場合の影響
  • 情報開示の範囲(105銘柄案など)
  • インサイダー規制の導入方法
  • 税制・保有規制の見直し案

これらのテーマを中心に、金融行政方針(金融庁)・有識者会議・業界団体で議論が続いています。

●2025年:制度案の具体化が進む時期

  • 対象銘柄の確定
  • 開示内容の基準化
  • 交換業者・発行体の新ガイドライン
  • 金融機関の保有ルール整備
  • 税制改革の方向性

2025年は、制度の骨格が見えてくる重要なタイミングになると考えられます。

●2026年:通常国会への法案提出

報道では、2026年通常国会に金商法改正案の提出をするとしています。
このタイミングで暗号資産の扱いが大きく変わる可能性があります。

●施行時期の見通し

法律が成立した場合でも、施行は以下のように段階的になる可能性があります。

  • 法律成立から数カ月〜1年後に施行
  • 発行体は経過措置期間が付与される可能性
  • 交換業者や金融機関には段階的な移行期間が設けられる想定

Web3企業にとっても、施行前からガバナンスや内部管理体制を整える準備が重要になります。

まとめ

暗号資産を金融資産として扱う動きは、これまでの「投機的なデジタル資産」というイメージから、金融商品としての透明性と信頼性を高める方向へと大きく舵が切られています。

金融庁が進める制度見直しは、情報開示義務の強化、105銘柄を対象とした開示ルール、インサイダー規制の導入、税制改革案、そして銀行など金融機関による保有解禁といった、非常に広範囲に影響が及ぶ内容です。

こうした規制強化は、企業にとってはガバナンスの向上や内部管理体制の整備といった負担を伴う一方で、長期的には市場の信頼性向上につながり、新たな事業機会にもつながっていきます。

投資家にとっても、発行体の情報開示が充実することで、これまで不透明だったプロジェクトの実態が判断しやすくなり、投資判断を下すための材料が増えることになるでしょう。

一方で、制度移行期には扱いが複雑になり、ルールの境界線が分かりにくくなる場面も予想されます。

トークンの種類が多様化したことで、どこまでが金融商品に該当し、何が対象外となるのか、今後も議論が続いていくでしょう。

税制についても、分離課税が導入される可能性があるものの、実際の施行時期は明確ではなく、引き続き注視する必要があります。

グローバルでもWeb3や暗号資産の枠組みが整備されつつあるため、日本の動きが遅れないよう制度改革が進むことは重要です。