2025年7月15日、ZetaChain(ゼタチェーン)とNTT Digitalの共催により、企業関係者向けのWeb3イベント「ユニバーサル・ブロックチェーンが切り拓く“Web3導入事例の最前線”」が、東京・お台場のdocomo R&D OPEN LAB ODAIBAにて開催されました。
企業・団体を中心に120名以上が来場し、Web3技術の社会実装に向けた熱気が会場を包みました。
開会の挨拶と主催者講演
イベントは、NTT Digitalの若手社員・志賀匠真氏の司会進行でスタート。海外から来日したゼタチェーンのCore Contributor、Demi He氏による開会の挨拶と乾杯で幕を開けました。

Demi氏の講演では、ゼタチェーンが掲げる「ユニバーサル・ブロックチェーン」構想、ノーブリッジでのクロスチェーン機能、Cosmos SDKとComet BFTをベースとした技術、TSS署名方式とEVM互換性による拡張性などが紹介されました。また、1億9千万件超のトランザクションと1,000万人超のユーザーを持つネットワークである点も強調されました。

続いてNTT Digitalのシニアマネージャー伊藤篤志氏が登壇。「Free to Trust」というビジョンのもと、「デジタルウォレットインフラ」と「ブロックチェーンインフラ」の二軸で展開する取り組みを紹介し、相互送客やウェルネスキャンペーンなどのWeb3導入事例が共有されました。

有識者のパネルディスカッション
パネルディスカッションには、異なる業界からWeb3の最前線を牽引する3名の有識者が登壇しました。パネリストとして、日立製作所 研究開発グループ 主管研究員 高橋健太氏と、NTT Digital Managing Director/CTO 遠藤英輔氏が参加し、Cabinet Founder/CEO 石田陽之氏がモデレーター兼パネリストとして登壇しました。

まず最初に日立製作所の高橋氏から、Web3時代における信頼基盤として注目される自己主権型アイデンティティ(SSI)の実用化に関する最新動向と自社の取り組みが紹介されました。高橋氏は、欧州のeIDAS 2.0により2026年までにEU加盟国でのデジタルIDウォレット(EUDIW)導入が義務化されたことや、米国でのモバイル運転免許証(mDL)の展開状況を踏まえ、SSIが国際的に社会実装フェーズに突入している現状を説明しました。

続くディスカッションでは、SSIの普及における課題として、高橋氏は自社が開発中の「BioWallet」技術のPoC(概念実証)に焦点を当てました。生体情報を用いてその場で秘密鍵を生成するという新たな鍵管理モデルは、クラウドやデバイスに依存せず、サイバー攻撃やデータ損失のリスクを回避しながら、ユーザー主権とセキュリティの両立を図る革新的なアプローチです。
NTT Digitalの遠藤氏も、分散型ID(DID)と検証可能認証情報(VC)を基盤とした新たなデジタルIDの枠組みに注目し、より実用段階に踏み込んだWeb3活用事例として、シンガポール情報通信メディア開発庁(IMDA)による「SingVC Sandbox initiative」を紹介しました。この取り組みは、国家デジタルID「SingPass」を基盤とし、プライバシー保護・運用効率・Web3互換性の強化を目的に進められています。

議論では、グローバルなデジタルID標準化とそれに伴う相互運用性の課題が中心となりました。欧州のeIDAS 2.0に代表されるように、国境を越えた利用を前提としたID整備が進む中で、国や事業者間のシステム分断が利便性や効率性の妨げとなっている現状が指摘されました。その解決策として、中立的な信頼基盤としてのブロックチェーンが注目され、SingVC Sandboxがその先進モデルであると評価されました。
高橋氏と遠藤氏は、それぞれ異なる視点から技術的・社会的課題を提示しましたが、共通して制度設計やレギュレーションの整備こそが普及の鍵であるという認識を示しました。技術的には実用段階にある中、国際的な標準化と法制度との整合性がなければ、実社会への展開は限定的であるという点で一致しました。
最後に、モデレーターの石田氏は、ステーブルコインに関する最新動向を取り上げました。JPモルガンの「JPMD」(イーサリアムL2「Base」上で発行)や、北國銀行の「トチカ」(プライベートチェーン上での預金型ステーブルコイン)といった実証的な事例を紹介し、パブリック型・許可型それぞれの特徴と設計思想の違いに言及しました。

登壇者たちは、パブリックチェーンとコンソーシアム型のどちらを選択するかは、ユースケースに応じて判断すべきであるとの見解を共有しました。特に、国内完結型か、グローバルなアクセスと相互運用性を前提とするかによって、最適な設計や技術選定が異なると語られました。
閉会と今後への期待
ネットワーキングも盛況のうちに行われ、最後にはNTT Digitalの稲川久雄氏が閉会の挨拶を行いました。参加者・登壇者への感謝を述べるとともに、「今回のイベントがWeb3の社会実装の加速に繋がることを期待する」と語りました。

また、参加者にはゼタチェーンのオリジナルタンブラーやトートバッグが配布されました。
今回のイベントを通じて、Web3が「実証フェーズ」から「社会実装・応用フェーズ」へと確実に移行している様子がうかがえました。今後も、制度設計やエコシステム形成を含む多角的なアプローチが、Web3の普及と持続的発展を後押ししていくことが期待されます。