米労働省は3月30日、確定拠出年金の401(k)プランでオルタナティブ投資へのアクセスを広げる新たな規則案を公表した。発表によると、この案は401(k)の運用責任者が投資ラインアップにオルタナティブ資産を組み込む際の手順を明確化し、受託者が指定運用商品を選定する際に使える「プロセスベースのセーフハーバー」を設ける内容である。労働省は、これにより9000万人超の米国人の退職資産に新たな選択肢を開くとしている。

発表の中心は「何を買ってよいか」ではなく「どう判断するか」

今回の提案で労働省が強調しているのは、特定の資産クラスを推奨することではない。発表文では、ERISA上の「慎重義務」はあくまでプロセスに根差すものであり、受託者は特定の投資商品について最大限の裁量と柔軟性を持つべきだと整理している。その上で、指定運用商品を選ぶ際には、パフォーマンス、手数料、流動性、評価方法、ベンチマーク、複雑性などを客観的かつ分析的に検討する必要があるとした。

トランプ大統領の大統領令を受けた制度整備

労働省は、この規則案がトランプ大統領の大統領令「Democratizing Access to Alternative Assets for 401(k) Investors」を受けたものだと明記している。ロリ・チャベスデレマー労働長官は、今回の提案によって、現在の投資環境をより正確に反映した商品を401(k)プランが検討できるようになり、結果として米国の労働者、退職者、その家族にとって大きな利益になると述べた。スコット・ベッセント財務長官も、安全かつ慎重な形で追加的な退職プランの選択肢を広げるための第一歩だと評価している。

バイデン政権下の暗号資産警戒姿勢も批判

今回の発表では、前政権の方針にも踏み込んでいる。労働省は、確定拠出年金の運営者にはもともとオルタナティブ資産を検討する権限があったにもかかわらず、実際にはほとんど導入が進んでこなかったと説明する。その上で、2022年にバイデン政権が、401(k)に暗号資産オプションを組み込むことへ警告を発したコンプライアンス文書が、こうした投資をさらに萎縮させたと批判した。副長官キース・ソンダーリング氏は、労働省が特定の資産クラスの勝者・敗者を決める時代は終わったと述べている。

オルタナ投資拡大は退職資産の多様化につながる可能性

今回の規則案は、プライベートエクイティやプライベートクレジット、不動産、インフラなど、従来の上場株式・債券以外の資産を401(k)で扱いやすくする制度的な下地とみられる。ただし、発表文は個別の資産クラスを明示的に推奨しておらず、あくまで受託者が慎重な手続きを踏んで判断することを前提にしている。そのため、制度上の扉は開きつつも、実際にどの程度導入が進むかは、運用会社、雇用主、訴訟リスクの受け止め方次第となりそうである。これは発表文の内容に基づく推論である。

影響範囲は大きい

労働省によると、EBSAは約1億5600万人の労働者、退職者、その家族に関わる給付制度を監督しており、対象には約80万1000の民間退職プランが含まれる。これらの制度全体で保有する資産は約13.8兆ドルに達するとされる。今回の規則案は、こうした巨大な退職資産市場の運用範囲を見直す議論につながる可能性がある。

今回の発表が意味するもの

今回の動きは、米国の退職資産運用において「オルタナ投資をどこまで一般化するか」という論点が、政策レベルで本格的に前進したことを示している。もっとも、現時点ではあくまで「proposed regulation」であり、最終規則ではない。今後の意見募集や修正を経て内容が変わる可能性もある。とはいえ、労働省がセーフハーバーまで含めて判断プロセスを示したことで、401(k)でのプライベート資産導入を巡る議論は次の段階に入ったといえそうである。

出典

https://www.dol.gov/newsroom/releases/ebsa/ebsa20260330