高市早苗首相の名を冠した暗号資産「SANAE TOKEN(サナエトークン)」を巡る騒動が、発行から約1カ月を経てなお収束の兆しを見せていない。2月25日のローンチ、首相本人の関与否定と価格暴落、金融庁の調査検討、プロジェクト中止、そして4月2日発売の週刊文春による「証拠音声」報道と、異例のスピードで事態が展開し続けている。本稿では、一連の騒動を時系列で整理する。

2月25日:Solana上でローンチ、初日に時価総額約25億円

SANAE TOKENは2026年2月25日、連続起業家・溝口勇児氏が率いるWeb3コミュニティ「NoBorder DAO」によって、Solanaブロックチェーン上で発行された。「Japan is Back」プロジェクトのインセンティブトークンと位置付けられ、テクノロジーで民主主義をアップデートするという構想が掲げられていた。

発行初日、トークン価格は初値から約30倍に急騰し、時価総額は約1,700万ドル(約25億円)を記録。ビットコインやイーサリアムが軟調な市場環境の中で、日本発トークンとして大きな注目を集めた。

総供給量は約10億枚で、エコシステムに65%、コミュニティに一定割合が配分されるトケノミクスが設定されていた。ただし、65%という大きな割合を運営側が握る構造に対しては、当初から懸念の声が上がっていた。

3月2日:高市首相が関与を全面否定、価格は50%以上急落

転機となったのは3月2日だ。高市早苗首相は自身のX(旧Twitter)で異例の長文声明を投稿し、サナエトークンへの関与を全面否定した。

首相の声明では、トークンの存在を「全く存じ上げない」とし、事務所側も内容を「知らされていない」と明言。何らかの承認を与えた事実もないとした。現職首相が特定の暗号資産について直接言及し否定するという、極めて異例の事態となった。

この声明を受け、サナエトークンの価格は即座に50%以上急落。発行直後の高騰で期待感を持っていた投資家がパニック売りに走った。

一方、溝口氏はNoBorderの動画内で「高市さんサイドとはコミュニケーションを取らせていただいている」と発言しており、首相の否定声明との矛盾が指摘された。

3月3日〜4日:金融庁が調査検討、運営が謝罪声明

出典:共同通信

共同通信は3月3日、金融庁がサナエトークン関連業者に対する調査を検討していると報じた。サナエトークンは国内の登録暗号資産交換業者では一切取り扱われておらず、DEX(分散型取引所)のみで取引されていたため、無登録での暗号資産交換業に該当する可能性が浮上した。

資金決済法では、暗号資産交換業を無登録で行った場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金が科される可能性がある。

3月3日には、株式会社neuのCEOを名乗る松井健氏が突如Xに登場し、トークンの設計・発行に関する一切の業務を自社が主体的に行ったと表明。翌4日にはNoBorder DAOのプロジェクトチームが公式Xで謝罪声明を発表し、トークン名の変更とプロジェクトの見直しを表明した。

同日、保有者への補償対象を確定するため、12時時点の全保有ウォレットのスナップショットを実施したと公表された。

3月5日:プロジェクト中止を正式発表

3月5日、NoBorder DAOは「Japan is Back」プロジェクトの中止を正式に発表した。溝口氏はXで「おれは絶対に自決なんてしません」「ヒットマンなのか記者なのかは知りませんが、おれはやることがあるので邪魔しないでもらえると助かります」と投稿し、「逆ギレ」「被害者ムーブメント」と批判を浴びた。

この時点で、トークン価格は最高値から75%以上下落。多くの投資家が損失を抱える結果となった。

3月9日:溝口氏がYouTubeで謝罪、補償方針を表明

溝口氏は3月9日、YouTubeチャンネル「NoBorder News」に出演し、高市首相や政府関係者、トークン保有者に対して謝罪した。番組内で溝口氏は「高市総理もそうですし、片山(さつき)財務大臣、内閣官房や金融庁をはじめとする官僚の皆さまにも申し訳ない」と述べた。

同席した弁護士・高橋裕樹氏は、トークン発行自体に法的許可は不要だが二次流通(売買)は金融商品取引法上のグレーゾーンであるとの見解を示し、現時点で明確な違法性は認められないとした。

溝口氏はプロジェクトの停止を宣言するとともに、トークン保有者への補填と関係当局への対応を最後までやり遂げる姿勢を強調した。ただし、2026年4月時点で具体的な返金の実施は確認されていない。

3月11日:X上で溝口氏と岡部典孝氏が応酬

CoinNinjaでも既報の通り、騒動はWeb3業界内部の論争にも飛び火した。3月11日にはJPYC代表の岡部典孝氏がX上でサナエトークンの問題点を指摘し、溝口氏との間で応酬が展開された。業界内の信頼や倫理観を巡る議論が表面化し、Web3業界全体の課題が浮き彫りとなった。

関連記事: 溝口勇児氏と岡部典孝氏がX上で応酬 SANAE TOKEN騒動が映したWeb3業界の断層

4月1日〜2日:週刊文春が「証拠音声」を報道、新たな局面へ

4月1日配信・2日発売の週刊文春(4月9日号)で、騒動は新たな局面を迎えた。

トークンの設計・実装を担った株式会社neuの松井健氏(33歳)が文春の取材に実名・顔出しで応じ、開発経緯について独占告白した。松井氏は「高市事務所の秘書さんには、サナエトークンが暗号資産であることを、すべてお伝えしていた」と主張。

文春によれば、証拠となる音声には、高市早苗事務所所長で公設第一秘書の木下剛志氏の肉声が残されており、打ち合わせの場で暗号資産の内容に言及する発言があったとされている。

この報道が事実であれば、高市首相が国会で述べた「事務所側もどのようなものか知らされておりません」という説明との矛盾が生じる。一方で、音声の前後の文脈や発言の具体的な意図については、有料記事でしか確認できないため、慎重な検証が必要だ。

論点整理:何が問題だったのか

サナエトークン騒動には、複数の問題が絡み合っている。

法的リスクとして、無登録での暗号資産交換業の疑い、現職首相の氏名・イラストの無断使用によるパブリシティ権侵害の可能性、金融商品取引法上のグレーゾーンが指摘されている。

投資家保護の観点では、金融庁に登録された国内取引所で一切取り扱われていないトークンがDEXのみで流通していたこと、エコシステムへの65%配分という偏ったトケノミクス、そして具体的な補償の実施が確認されていない点が問題視されている。

Web3業界への影響として、政治家の名前を冠した「政治系ミームコイン」の倫理的問題、プロジェクトの信頼性と透明性の基準、業界内部での論争の表面化が挙げられる。

今後の焦点

サナエトークン騒動の今後は、金融庁の調査結果がどう出るか、文春が報じた「証拠音声」を巡る高市首相サイドの対応、そして保有者への補償が実際に履行されるかどうかに左右される。

この騒動は、日本における暗号資産と政治の関係、そしてトークン発行時の法令遵守のあり方を問う事例として、今後も注視が必要だ。

時系列まとめ

日付出来事
2月25日NoBorder DAOがSolana上でSANAE TOKENを発行、初値から約30倍に急騰
3月2日高市首相がXで関与を全面否定、価格50%以上急落
3月3日金融庁が調査検討と報道、松井健氏が責任者として名乗り出る
3月4日NoBorder DAOが謝罪声明、トークン名変更とプロジェクト見直しを表明
3月5日「Japan is Back」プロジェクトの中止を正式発表
3月9日溝口氏がYouTubeで謝罪、補償方針を表明
3月11日X上で溝口氏と岡部典孝氏(JPYC代表)が応酬
4月1日〜2日週刊文春が松井氏の実名告白と「証拠音声」を報道

出典