仮想通貨の価格は、常に右肩上がりとは限りません。時には長期間にわたって価格が下がり続ける「下落相場(ベアマーケット)」が訪れます。

通常の「現物取引」しか知らない場合、下落相場では「価格が回復するまで耐える」か「損切りして逃げる」しか選択肢がありません。しかし、DeFiや海外取引所のレンディング(借入)機能を使いこなす上級者たちは、価格が下がっている時でも利益を出しています。

それが「ショート(空売り)」と呼ばれる手法です。

この記事では、レンディングの仕組みを応用して「価格が下がるほど儲かる」という魔法のような、しかし危険な取引手法の裏側を丁寧に解説します。

ショート(空売り)とは何か?

通常の投資は「安く買って、高く売る」ことで利益を出します。これを専門用語でロングと呼びます。 対してショート(空売り)は、順番を逆にして「高く売って、安く買い戻す」ことで利益を出す手法です。

「持っていないものを、どうやって売るの?」と疑問に思うかもしれません。 ここで活躍するのが、前回の記事でも解説した「レンディング(借入)」の機能です。他の人から仮想通貨を「借りて」くることで、持っていない仮想通貨を売ることができるのです。

レンディングを使ったショートの具体的な手順

それでは、あなたが「これからビットコイン(BTC)の価格は下がる」と予想したと仮定して、DeFi(Aaveなど)や海外取引所でショートを仕掛ける具体的な手順を見ていきましょう。

担保を預ける

まず、価格変動のないステーブルコイン(USDTなど)をプラットフォームに預け入れ、これを担保にします。

ビットコインを「借りる」

預けたUSDTを担保にして、ターゲットとなるビットコイン(BTC)を借ります。

借りたビットコインを「即座に売る」

ここがショートの肝です。借りて手に入れたBTCを、今の高い価格のまま市場ですぐに売却し、USDTに換えてしまいます。

価格が下がるのを待つ

あなたの予想通り、ビットコインの価格が下落するのを待ちます。

安くなったビットコインを「買い戻す」

価格が十分に下がったら、手順3で手に入れたUSDTを使って、市場で再びビットコイン(BTC)を買い戻します。

ビットコインを「返済」する

買い戻したBTCをプラットフォームに返済します。手順3で売った金額と、手順5で買い戻した金額の「差額」が、あなたの手元に利益として残ります。

ステップアクションの内容手元のBTC手元のUSDT(資金)
1. 借りる取引所から1BTCを借りる1 BTC0 USDT
2. 売る借りた1BTCをすぐに100万円で売る0 BTC100万 USDT相当
3. 待つ予想通り、1BTCの価格が80万円に下落0 BTC100万 USDT相当
4. 買い戻す手元の資金から80万円分を使って、1BTCを買い戻す1 BTC20万 USDT相当
5. 返済する買い戻した1BTCを取引所に返却する0 BTC20万 USDT相当(利益)

投機だけではない。リスク回避(ヘッジ)としての活用法

ショートは「相場の下落に賭けるギャンブル」というイメージが強いかもしれませんが、賢い投資家は自分の資産を守るための「保険(ヘッジ)」としてこの仕組みを利用します。

例えば、あなたが大量のビットコインを長期保有(ガチホ)しているとします。しかし、一時的に相場が大きく崩れそうな悪いニュースが出ました。

この時、現物のビットコインを売ってしまえば税金がかかります。 そこで、保有しているビットコインの一部を担保にしてビットコインを借り、それをショート(空売り)します。

もし本当に価格が暴落しても、現物の価値は下がりますが、ショートしたポジションからは利益が出るため、トータルの損失を相殺(ヘッジ)することができます。

絶対に知っておくべき「ショートの恐怖」

価格が下がっても稼げるショートは非常に強力な武器ですが、投資の世界には「買いは家まで、売りは命まで」という恐ろしい格言があります。

1. 損失が「無限大」になる可能性

通常の買い(ロング)の場合、最悪の事態でも価格がゼロになるだけで、損失は「投資した金額まで」に限定されます。

しかしショートの場合、「高く買い戻さなければならない」リスクを負います。価格の上昇には限界がありません。もし予想に反して価格が2倍、3倍、10倍と暴騰してしまった場合、買い戻すためのコストが青天井に膨れ上がり、莫大な借金を背負うことになります(実際にはその前に清算されます)。

2. 踏み上げ(ショートスクイーズ)と清算

市場にショートをしている人(価格が下がってほしい人)がたくさんいる状態で、何かの拍子に価格が急上昇するとパニックが起きます。

ショートしている人たちは「これ以上価格が上がると大損する(清算される)」と焦り、損失を確定させるために慌てて仮想通貨を「買い戻し」に走ります。この大量の「買い」がさらなる価格上昇を招き、ロケットのように価格が跳ね上がる現象を「ショートスクイーズ(踏み上げ)」と呼びます。

この巻き添えを食らうと、あっという間に担保を没収(清算)されてしまいます。

3. 金利コスト(手数料負け)

仮想通貨を「借りて」いる状態が続くため、ポジションを持っている間は常に借入金利を支払い続ける必要があります。価格が予想通りに下がっても、時間がかかりすぎると金利コストが利益を上回ってしまう「手数料負け」が発生します。

まとめ:仕組みを知ることで市場の裏側が見える

レンディングを活用したショートの仕組みを理解すると、なぜ価格が急激に上下するのか、その裏にいる投資家たちの思惑が見えるようになります。

初心者がいきなりショートに手を出すのは、リスクが高すぎるため推奨しません。

しかし、「相場が下がっている時でも、裏側で利益を出している人たちがいる」「価格が急騰するのは、ショートしている人たちが買い戻しをさせられているからだ」という市場のメカニズムを知ることは、あなたが長期的に仮想通貨投資を生き抜くための強力な知識となるはずです。