ブラックロックのラリー・フィンク会長兼CEOは、2026年の年次会長書簡で、AIが生み出す経済価値が一部の企業と資産保有者に集中し、格差をさらに広げる恐れがあると警告した。書簡の主題は「Growing with your country(自国とともに成長する)」であり、各国が自給自足と産業回帰へ向かう局面で、より多くの人が長期投資を通じて成長の果実に参加できる仕組みが必要だと訴えている。Reutersも、フィンク氏がAIブームによる富の偏在リスクを強く意識していると報じている。

書簡の軸は「資本市場が経済成長を左右する時代」である

ブラックロックは書簡の要約で、「経済価値のより大きな部分が資本市場で生み出される時代に入った」と整理している。その一方で、成長の恩恵が届く範囲はなお狭く、退職制度や早期の投資機会、現代化された市場インフラを通じて、長期投資への参加を広げる必要があるとした。フィンク氏は、短期的な相場のノイズではなく、長く市場に残ることの重要性を繰り返し強調している。

AIは「既存の資産保有者をさらに利する」と警告した

今回の書簡で最も注目を集めた論点の一つがAIである。フィンク氏は、これまでの富の大半が労働所得よりも資産保有者に流れてきたとした上で、「AIはその傾向をさらに大きな規模で繰り返す恐れがある」と指摘した。書簡では、1989年以降、米国株式市場に投じた1ドルの伸びが、中央値賃金に結びつく1ドルの伸びの15倍超になったとも述べている。Reutersも、AIの利益が一部の勝者に偏る構図への懸念を今回の書簡の中核論点として伝えた。

各国の「自立化」には、これまで以上に長期資本が必要になる

フィンク氏は、世界がエネルギー、防衛、製造業、先端技術の分野で相互依存を減らし、自立性を高めようとしていると分析している。ただし、その移行は高コストであり、銀行や政府資金だけでは賄い切れないとした。書簡では、希土類の調達先多様化や台湾以外での半導体工場建設などを例に挙げ、こうした再編の資金は今後ますます資本市場から調達されると説明している。

「投資に参加できない人」が多すぎると問題提起

フィンク氏は、長期投資の恩恵を広げるうえで、そもそも投資に参加できていない人の多さを問題視した。書簡では、米国は世界でも市場参加率が高い国の一つとしながらも、それでもなお人口の約40%は資本市場へのエクスポージャーを持っていないと指摘している。家計が給与から給与へと暮らしている状態では投資の入り口に立てず、まずは基礎的な金融安定を築く必要があるとの立場である。

トークン化を「投資参加を広げる金融インフラ更新」と位置付けた

今回の書簡では、暗号資産そのものというより、トークン化の考え方にも踏み込んだ。フィンク氏は、世界人口の半分がスマートフォン上のデジタルウォレットを持っているとした上で、そのウォレットが将来、送金と同じくらい簡単に長期投資へアクセスする入口になり得ると述べた。トークン化は、金融システムの配管を更新し、投資商品の発行、売買、アクセスをより容易にする手段になり得るというのが書簡の整理である。

「市場に残り続けること」の重要性も改めて訴えた

フィンク氏は、短期の相場変動に振り回されず、投資を継続することの重要性も改めて強調した。書簡では、過去20年間でS&P500に投じた1ドルは8倍超に増えた一方、最良の10営業日を逃すとリターンは半分未満になると説明している。Reutersも、地政学リスクやAIによる産業再編観測で相場が揺れる中でも、フィンク氏が「投資を続けること」の重要性を改めて顧客に訴えたと報じている。

今回の書簡が意味するもの

今回の年次書簡は、AI、産業政策、金融市場という別々に見えるテーマを、「誰が成長を所有するのか」という一つの論点で束ねた内容である。フィンク氏は、AIが経済価値を生み出すこと自体には強い確信を示しつつ、その価値をより多くの人に行き渡らせるには、長期投資への参加拡大と市場インフラの近代化が不可欠だと主張した。ブラックロックのトップによるこの問題提起は、資産運用業界の見解にとどまらず、AI時代の資本主義をどう再設計するかという論点として、今後も波紋を広げそうである。

出典

https://www.blackrock.com/corporate/investor-relations/larry-fink-annual-chairmans-letter#section-1-why-growing-with-your-country-has-never-mattered-more